高いパフォーマンスを発揮する従業員の定着は、企業にとって重要な問題です。特にアメリカでは、キャリア形成や自身のスキルや経験をより生かすため、頻繁に転職する傾向があります。高パフォーマンスの従業員の退職は、企業の業績だけでなく、職場の雰囲気や生産性にも大きな影響を与えます。この記事では、アメリカ法人の職場環境において高いパフォーマンスを発揮する従業員を引き留め、長期的にコミットしてもらう事を促進する具体的な戦略について探ります。
パフォーマンスに基づく評価制度の導入は、正しい解決策か?
JAC Recruitment USAに寄せられる相談の中でも多いのはハイパフォーマーが退職してしまうというものです。企業のマネジメント層、特にCEOやディレクターの方々は、外部のベストプラクティスを取り入れることによる人事制度の見直し(仕事の内容、目標の明確化、パフォーマンス評価制度の変更など)を常に模索しています。しかしながら、そうした対策の効果は企業の方向性やEmployee Value Proposition(EVP)との整合性に依存するため、トップパフォーマーが退職する事態が発生する前に振り返ってみることが重要です。
Employee Value Proposition(EVP)の理解:
Employee Value Proposition(EVP)とは、マッキンゼー&カンパニーの書籍「The War for Talent」(2001年)から発展した概念で、企業が従業員に提案可能な価値を指します。企業は、従業員に対して高い成果を期待しますが、一方の従業員も企業に対して処遇やキャリア構築などの面で期待をします。企業が提供することができる価値を高め、明確に伝えることができれば、従業員のモチベーション維持に有効で、離職を防ぎ、新たな人材の採用時にも外部へのアピール力が向上すると考えられます。
EVP向上のステップは?
ステップ1: 現状の把握
現在就業中の従業員が、自社に魅力を感じて働いている要因を理解することが重要です。さまざまな側面(戦略、仕事、文化、報酬など)を網羅する質問項目を作成し、社内で調査を実施して従業員の状況を数値化します。例えば、「自分の業績を反映した報酬」への期待度について、満足度を5段階で評価してもらうなどが考えられます。
ステップ2: 価値の明確化
企業のEVPが見つかったら、社員へのヒアリングを通じてこれらの価値を企業独自の言葉で表現することが不可欠です。例えば、「親しみやすい仲間」「チームワーク」「親身で、スピード感のある対応」「業績に応じた報酬体系」などのキーワードです。
ステップ3: 価値の強化と伝達
企業の強みが特定されたら、それを効果的に伝えることが重要です。これは単なる言葉だけでなく、政策や仕組みを通じて伝達することも含みます。例えば、家族的な文化を強調する企業なら、Family Dayなど家族を巻き込んだイベントを企画することが強みを更に高めます。
ミクロの視点: 個々の従業員に焦点を当てる
EVPはディレクターや人事担当者にとってはマクロなアプローチとなりますが、ミクロな視点も同様に重要です。各従業員は単なる「従業員」ではなく、一人の人間です。 EVPを大局的に考えつつも、従業員との定期的な1on1のコミュニケーションが重要です。従業員が活躍している時こそ、彼らのキャリアや個人の評価、仕事だけでなく家族やプライベートな側面にも配慮することが必要となります。
結論:
外部のベストプラクティスを検討する前に、まず社内の現状を把握することがお勧めです。EVPは高パフォーマンスの従業員を引き留めるための戦略的な枠組みを提供しますが、ミクロなレベルでの個別対応とコミュニケーションも同時に持続可能で満足のいく職場環境構築のために大切なプロセスとなります。人事戦略を企業独自のEVPに整合させ、 EVPを意識的に設定・明示することで、優れた人材を引き寄せ、長期的なコミットメントを確保し、内部の人材パフォーマンスを最大化し、結果的にビジネスの成績向上にも繋がると考えられます。
参考文献:
JAC Recruitment. "日系現地子会社におけるヒトと組織の課題" 調査資料より
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